生物多様性条約第15回締約国会議(2022年12月)では、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択され、自然と調和する社会の実現に向けて、4つの長期目標と23の中期目標が設定された。生物多様性の維持・回復に対して、実効性のあるアクションを実行するためには、保全リソースの最適配分と、様々な利害関係の調整が必要になる。これらを解決するための科学的手法として発展してきたのが、システム化保全計画法である。システム化保全計画法では、システム化されたステップに沿って、数値目標を設定し、客観的データ分析に基づき、科学的に合理的な保全計画案を生成することで保全意思決定を支援する。システム化保全計画法の概念的・方法論的発展は、近年の生物多様性空間データの充実と精緻化とも関係している。黎明期のシステム化保全計画法の分析では、解像度の粗い空間データによる、自然保護区の最適配置問題の解決が主な課題であった。最近では、生物多様性や人間活動に関する高解像度空間データが利用可能になり、システム化保全計画法の適用範囲も、復元適地選択、開発候補地選択、人為インパクトの評価など、多様化している。システム化保全計画法で用いられる空間解析アルゴリズムは、個々の場所(保全ユニット)の生物多様性を評価するのではなく、選択された保全ユニット全体の性質(例:保護区ネットワークでカバーできる種多様性)を評価するのが特徴である。これは、個々の場所での人為活動が生物多様性に与えるインパクトが、対象地域全体の生物多様性保全にどのように貢献するかを知るための評価軸になる。本セミナーでは、システム化保全計画法の過去の研究事例をレビューし、日本における適用事例を紹介しつつ、今後の展望について議論したい。